洋学博覧漫筆
ようあん |
Vol.23 榕菴の温泉試説 |
▲「豆州修善寺温泉試説」 (武田科学振興財団杏雨書屋所蔵) と浮き秤の図 (『舎密開宗』津山洋学資料館所蔵) 寒い季節には温かい温泉に心ひかれるものです。 津山藩の洋学者・宇田川榕菴も温泉に興味を持っていましたが、それはとても科学者らしいものでした。今回は榕菴の温泉研究を紹介しましょう。 榕菴は「諸国温泉試説」という原稿を書き残しています。それによると、温泉の研究を始めたのは文政11年(1828)、29歳のときでした。この年の3月、養父の玄真が熱海への湯治療養を計画し、榕菴に「温泉の水質を試しに調べてみなさい」と言いました。神経痛に効くなど、温泉の効能はよくいわれますが、科学的に分析すると一体どのような性質を持っているのか確かめようというのです。そこで榕菴は熱海の温泉水を手に入れ、実験を始めたのでした。 榕菴はまず色や臭いを観察し、自ら飲んで味も確かめます。それからホクトメートル(浮き秤)を使って比重を測定し、薬品や熱を加えてその反応をこと細かに記録しました。実験結果は湯治へ出かける前に玄真に知らされました。玄真は途中で修善寺温泉にも立ち寄り、その水を持ち帰っています。結果に満足し、さらに研究させようと考えたのでしょう。 また、榕菴はこの原稿を洋学仲間にも見せていて、この後友人から有馬温泉や諏訪温泉、薩摩の硫黄島など、全国各地の温泉・冷泉の水をもらって研究を続けています。 文政12年(1829)には美作の湯郷・湯原・真賀温泉の研究をしています。この年榕菴は江戸にいたので、自分で採取した訳ではないようです。名前は記されていませんが、おそらく同僚の津山藩士に届けてもらったのでしょう。 ほっと一息つく温泉にも、持ち前の探究心を発揮した榕菴。きっと、心の中はいつも科学的な好奇心で満たされていたのでしょう。
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